WEB BEA VOICE Vol.210 TOP  BACK NUMBER  ARTIST INDEX  BEA-NET

photograph;ノニータ text;YoshihiroクマKumagai

――ここ何年かの吉川さんの活動をみていると、デビュー十周年あたりをひとつの区切りとして、アーティストとして表現しようとしているものが変わってきたように感じるのですが。
吉川晃司:そうですね。前の2枚のアルバムあたりは、大げさにいうと、自分探しの旅といったような部分もあったと思うんです。ちょっとインナートリップしていたというか。ゆりかごから墓場まで、人はどのようにして生き、なぜ人はそこに存在するか、なんてことを考えていたのかな、なんて思いますね。
――そういう風に考え出したというのは、なにかきっかけみたいなものはあったのですか?
吉川:元々、そういう風に考える傾向はあったんです。自分で言うのもなんですけど、ちょっと文学少年の部分もあるんですよ。でもこれまではそういうものはあまり表に出ていなかったし、出さなかったし、それとは違う部分で闘っていたということがあったと思います。それがここ何年かで、いろいろな意味で、自分自身がフラットになってきて、そういうものを出せる余裕が出てきたということはあると思いますね。
――その『文学少年』という部分は、歌詞なんかにも反映されているわけですよね。
吉川:そうですね。歌詞なんかにそういう部分を積極的に乗せるようになってきたということですね。……ちょっと言ってることが堅いかい? オレ(笑)。
――質問が堅かったですかね。
吉川:だっていきなり、『ビシッ』とくるもんだから(笑)。……やっぱり世の中に対して、言いたいことというか、自分はこういう風に行きたいという思いを表現していこうという部分はありますよね。『それはちょっと違うんじゃないか』とか『それはよくないんじゃないか』ということはちゃんと言っていこう、と。オレは世紀末というか、未来に破滅が待っていると考えちゃうほうなんですよ。世の中、なんでもかんでも、今が飽和状態かなと。そういう時代に、いかに生きていくべきなのかということを体現したいと思っているんですけどね、自分としては。それをいろいろな形で、皮肉も込めて、笑って歌ったりとか、そうやって出していってますね、今は。あんまり重っ苦しく歌うべきではないと思うんですけど、そういう部分はちゃんと出そう と思ってやってます。世の中、優しい歌が多すぎると思うんですよ。『大丈夫だよ』って、安心させてくれる歌が多いじゃないですか。でも現実は、大丈夫じゃねぇよね(笑)。そこんところを、クールに出していきたいな、と。
――でも吉川晃司というアーティストをデビュー当時から知っている人から見ると、それっていうのは大きな変化ですね。
吉川:デビュー当時は、とにかく体制主義が嫌いで、体制に対してなんでもかんでも反抗することによって、なんとか自分の存在を自分に認めさせようとしていたところはあったと思いますね。あの頃は手段も方法論も持っていなかったから。『これは違うんじゃないかな』と思っても、どうしていいかわからないから、壊れていた、という感じだったと思います。
――ここ何年かは、アルバム・リリースのインターヴァルも、それ以前よりも長くなっていますよね。
吉川:それはね、商業ビジネスというものに、ぼくらはある程度乗っかっているんだけど、それに振り回されるのはやだなと思うんですよ。オレは職人だとしたら、手打ちうどんを作りたいんです。インスタント・ラーメンというか、コンビニエンス・ビジネスじゃなくて。消耗文化の中には組み込まれたくないなという気持ちもあるし。そうやってアルバムを作っていると、スピーディーには作れなかったという部分はありますね。
――吉川さんがデビューした当時は、アイドル的な扱いをされていて、先輩バンドなんかもたくさんいたわけですけど、その時に見えていた音楽シーンの風景と、今、三十歳をこえて、自分よりも若いバンドが次々と出てきているような状況の中で見る音楽シーンとでは、どこがいちばん変わってきたと思いますか?
吉川:昔、いわゆる芸能界にどっぷりと浸かっていた頃は、そういうロックとかニューミュージックの世界は、もうちょっとピュアにやっているのかなと思ったら、実は音楽ビジネスの部分では同じだったんですよ、オレから見れば。『なーんだ』と思いましたね。だったら自分は自分なりにやっていけばいいや、というのがその頃のぼくの結論だったわけです。ただ昔は『ロックはテレビに出ない』という風潮があったんだけど、それが今ではなくなって、ロックの連中もテレビに出るようになったし、そういう意味ではヘンな対抗意識のようなものはなくなったみたいだし、それはいいんじゃないかなとは思いますね。オレたちの頃は、ちょっとロックっぽいことをやったら、テレビ局がイヤな顔をするとか、そういうことがあったけど、いつのまにかそれがなくなって、当たり前のことになってますよね。だから今は、何がロックかということも曖昧になっている部分もありますよね。ある意味で、ロックの格好をしているヤツがロックだといわれているだけじゃないですか。
――だったら、かつては芸能人だ、なんて言われていた自分のほうがよっぽどロックだと。
吉川:でもオレはまだロックを語るほどジジイじゃないし、四十歳、五十歳になっても、どハデにやっていきたいと思っていますけどね。ただ、去年三十歳になったときに、一度三十歳というのを意識してみるのもいいのかなと思って、『FOREVER ROAD』というアルバムを作ったんですよ。そしてそれを作ったからこそ、今回の新作『BEAT ∞ SPEED』というアルバムが作れたと思いますね。今回のアルバムは、もうミーハーでしょ。だから若い・若くないというのは、年齢じゃないですよね。オレは五十歳になっても青春していようと思っていますから。
――では、二十歳の頃に自分が思い浮かべていた十年後の自分と、現在の自分とを比べてみると、大きく違っている部分なんかはありますか?
吉川:全然違いますね。もっとすごいことになっていると思ってた(笑)。なんか、遅い。
――人生そんなに甘くない、と。
吉川:もっと速く走ってるはずだったんだけど、なんか、途中で寄り道が多かったかなぁ(笑)。オレはいつも走ってるつもりなんだけど、なかなかいろいろなところに着かないという……まだまだたいしたものになっていないよね。自分では、そういう ものになると信じているんですけどね。
――二十歳の頃から、描いている夢は変わっていないんですか?
吉川:オレは、そういうものが変わらないことが大事だと思う。だから、板前人生に近いですよ、ぼくの考えは。包丁一本さらしに巻いて、最後まで、包丁で魚をさばき続けるという。だから、二足のわらじというのは、あまり好きじゃないですね。表に掲げるものと、自分の心に掲げるものとはちょっと違いますけど、二十歳の頃に自分の心に掲げたものは、抱きしめて離さないつもりではいます。
――映画に出たり、テレビに出たりはするけど、最終的にはシンガーとして、アルバム作って、ステージ立ってというのが、吉川さんの『包丁』だと。
吉川:そうですね。本当にそれだけでやっていけるようになるのが理想だと思いますけど、ま、なんやかんやで、いろいろありますよね(笑)。例えばテレビのヴァラエティなんかに出て、冗談かまして笑わせるのが得意、というのもひとつの才能じゃないですか。でもオレはそれができないんですよね。冗談言っても、みんな笑わないし(笑)。あるテレビで、あるタレントさんに「その冗談、おもしろくないですね」って言ったら、ムッとされちゃって(笑)。
――ではここ何年かで、ステージに対する考え方とか、取り組み方が変わってきたというようなことはありますか? 吉川:それはないですね。ぼくはアルバム作るのは、ステージのためだと思っているし、カッコいいことを言わせてもらうと、ぼくの人生において『本番』というのはステージだけなんで、レコーディングを含めて他のすべては『待ち時間』かな、という感じですね。やっぱり、客が来てくれて、ワーッと声援をくれる、笑顔を見せてくれるというのは、オレたちにとってすごい力になりますからね。だからツアーはいちばん好きだし、その思いというのはずっと変わっていないと思います。
――ぼくもライヴというのが、ミュージシャンにとっていちばん大事なものだと思っているんですけど、最近はライヴをやらないミュージシャンというのも出てきていますよね。
吉川:それはきっと、ただの金儲け主義でしょ。最近はサイクルが早いというか、ライヴやらないで、どんどんCD出したちゃったほうが、得といえば得なんですね。とにかく早いサイクルでCD出さないと、忘れられるというか。なんか『ポイ捨て音楽シーン』ですよね、今。オレは決してそれがいいことだとは思わないけど、時代そのものが変わらないと、音楽のシステムがただ変わっても、本質は何も変わらないですからね。……オレたちがティーンエイジャーだった頃よりも、今のティーンエイジャーのほうが辛いでしょうね。オレたちの頃は、まだ出来上がっていないものがあったから、まだ作る意欲があったけど、今の子たちは、ほとんどのものがもう出来上がっているからね


――しかも、この先の夢も持てない、と。
吉川:そうそう。爺さんぐらいの年代の人に文句を言いたいのは、彼らが日本を作っていくときに、オレたちの夢を、未来をくだらないものにされちゃった、ということですね。今の若いやつらはそれがもっと強いと思うし、彼らは夢を語るのが恐いという部分もあると思うんです。熱いものは持っているんだけど、熱く語ってしまうと、失敗したときにやり直しがきかないから、しらけた振りをしてるのがいちばんだっていう感じがありますよね。でもしらけた振りしたって、しょうがないんだよね。『大丈夫』じゃないんだから。
……やっぱり堅いね、オレ(笑)。でも、こういうヤツなんです(笑)。……人間夢を見ないと成長しないし、みんな『貘』の部分があると思うんですね。夢を喰って生きているという。夢に乏しい時代だからこそ、どうやって夢を喰っていくんだろう、ということを歌いたいなと思いますね。「大丈夫だよ、大丈夫だよ」ってだけ歌っていたくないですから。
――ヤバい部分を理解しながらも、夢は見続けるという。
吉川:ヤバい部分も受け入れて、それを消化して、夢をちゃんと見ようよということを、歌いたいぞという気持ちはありますね。
――だからこそ、例えば今回の新作は、必要以上に深刻になっていない、と。
吉川:そうですね。あんまり押しつけがましくは言いたくないし。よくよく聴くとけっこうディープなこと言っているんだけど、パッと聴くととても軽快なラヴ・ソングに聴こえるとか、そういう風にこだわって作っています。 ――以前、一昨年の『Cloudy Heart』、去年の『FOREVER ROAD』、そして今作で3部作になる、というようなことを言っていましたよね。
吉川:あ、3部作はやめました。今回は前2作とは全然違います。3部作にするともっとディープになっちゃって、そうなるとそれはもうマスターベーションになっちゃいそうで、やめました。さっきも言ったように、インナー・トリップ、自分探しの旅という部分で、それに対する答えがほしいと思って作り始めたんだけど、そんなもん、答えがないというのが答えなわけじゃないですか。人生に答えなんかあるわけないですよね。そう思ったときに、なるほどね、と楽になった部分はありますね。とにかくただ走り続けてりゃいいんだ、ってね。だったら今回はちょっと遊んでやれ、と思って、吉川晃司が吉川晃司をプロデュースしてやろうと考えたんです。オレが、外から見られるイメージっていうのは、こういうことなんだろうな、という気持ちで作りました。わかりやすく。
――「ワシは止まると死ぬんじゃ」ですね。
吉川:そうそう。サメみたいなもんですよね。サメ、マグロ系ですね、ぼくは。止まると死んじゃう(笑)。
――今回のアルバムは、曲のタイトルなんかでも遊んでますよね。「DATE RIPPER」「ROUTE 31」「POSTMAN」なんて、ロックの名曲のタイトルのもじりだし。
吉川:シャレですよ、シャレ(笑)。アルバムの後半は特に、遊びながら、趣味で作りました。前半は外に向けてという感じで作っていますけど。
――でもこのシャレがわかるのは、吉川さんと同世代か、それ以上の年代でしょうね。
吉川:だから、幅広い世代に受けりゃいいかな、と。十代から四十代までという感じでね。
――でも十年も活動していると、デビュー当時にファンになって、今でも聴いてくれている人たちと、COMPLEXの頃からファンになった人たち、そして最近ファンになった人たちというのがいますよね。
吉川:そうですね。COMPLEX知らない人もいますしね、今だと。もちろん昔テレビにバンバン出ていた頃を知らない人もけっこういるし。
――でもコンサートでは、そういうお客さんが混ざり合っているわけですよね。
吉川:そうですね。若い世代は、男の子が多いですね。女の子は、オレと同世代の人が多いかな。昔、アイドルっぽかった頃は男のファンが少なかったんだけど、こういうスタンスになってきて、男でも聴けるようになってきたんですかね。ぼくが歌っているのは、男のロマンなんですね。だからそういう部分にひっかかってくれる男が多いんじゃないかな。
――今じゃ、吉川晃司を聴いて育った世代の連中が、プロとしてデビューするようになってきた。
吉川:いますね、そういう連中。最近そういうやつらと飲みに行くこともあるんだけど、そうしたらオヤジ扱いされちゃって(笑)。「ぼく、小学校の頃に『モニカ』聴いてました」とか。非常にむかつきますね(笑)。気が付いたら十二年経ってた。でも十二年経って、やっと自分のスタンスができてきた感じですね。……長い長い。時間ばかり経っちゃって(笑)。
――じゃあ、吉川晃司はこれからどこへいこうとしているのか?
吉川:いやぁ、もう、突っ走りますよ。急な坂を登っていかないとね。オレは反体制主義だし、板前的な男の勝負が好きなんで、なかなか風当たりが強いんですよ。バンバンいろいろなものが当たってきますからね(笑)。
――でも、そういうものをヒョイヒョイと除けるのがうまい人にはなってほしくないという思いはありますね。
吉川:それはきっとできないでしょう。逆に道がなければ、壁でも通る、という感じでやっていきたいと思いますね。


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