キングスネーク伝説

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エレキ

Legend of KingSnake

【エレキが欲しか】

 僕にエルヴィスの洗礼を受けさせた従兄弟のエレキの兄ちゃんが持っていたのはテスコのギターとグヤ・トーンのギター・アンプだった。
当時楽器屋に飾ってある本物のフェンダー・ジャガーやモズライトのヴェンチャーズ・モデルなんか三十万円もするからため息混じりで見るだけのものだった。国産のテスコ、グヤ・トーンが一般的だったが、何でもあるとビクターや河井楽器もエレキを発売していた。エルク、ヤマハは高級品だった。まっ、一番凄かったのは銀座山野楽器のカタログに載って いた舶来品に違いなかったが。
 安い物でもアンプとセットで買おうとすれば五万円はいる。サラリーマンの3ヶ月分の月給だから中学生には手も届かない。じゃあ、どうするか、「エレキば買うて」と言ったとたん「この、馬鹿たれがっ」と言われるのは目に見えている。クラシック・ギターじゃ歌謡曲になってしまうから、よぉし、作ろう。
従兄弟のエレキを手始めに、楽器屋さんに展示してあるギターのフレットを一つ々々物差しで計って、設計図を作ろうとしてはたと困った。同じモデルのギターばかりを計るのではないから、全て長さが異なっているのだ。中学数学の極致、方程式を持ってしてもきっちりしたネックの長さ、フレットの寸法も割り出せない。
しかし、その問題もある意外な展開から解決することになる。
 中学校には音楽教室があり、そこにはステレオがあった。家ではポータブル・プレーヤーでしか聞けない僕らは音楽教室のステレオでレコードを聞こうと、放課後二・三十枚のシングル盤を持って言って職員室が 空になるのを待っていた。
「みーんな、かいったごたぁぜ」見張り役がそう言いながら走ってきた。
「なんから聞くや」
「今度でたローリング・ストーンズのこれたい」
「サティスファクションやっ」
「ちがーっ、アポマッタッたい、(ひとりぼっちの世界)遅れとーねぇ」
ついに始まった音楽室レコード・コンサート。
次はビートルズ、ビーチ・ボーイズと五・六曲聞いた時、「あなた達なにしてるんですか」とかん高い声が教室の入り口から聞こえてきた。
振り向くと音楽の女性教師が大きな目をして、こちらを睨みつけている。見張り役の某君にいっせいに「かいったって言いよったろーが」「なんやお前ゃ」攻撃が始まった。音楽教師はステレオのボリュームも下げずに一気に電源を切った。先ほどの興奮が別の興奮に一瞬にして変わってしまった。
「このレコードは誰のですか」
『一人ぼっちの世界』を手に聞いた。
「おーがみんとです」
「おーがみくん、職員室に来なさい。他の生徒はさっさと帰りなさい」
『一人ぼっちの世界』は僕のには違いないが、田中んとも中村んとも入っとろーが!と言う間もなく、音楽教師はレコードを持ってモンロー・ウォークっぽく歩いて行った。
同級生の顔はにやついていた。僕はしょうがなしに職員室に行くより他はなくなった。この若い女性音楽教師は具体的な表現は避けるが、中学生には刺激が強い身体つきで週一回の音楽の時間を楽しみにさせてくれるいいセンセイなのだ。
「放課後にこんなレコードを聞くなんてなんですか。おーがみくん、これあなたが持ってきたの」と言われたから、一瞬間を置いて「はい」と答えた。理由は二つある。職員室には他のセンセイは誰もいない、音楽教師だけである。このセンセイが他のクラスの授業の時にビートルズが好きだと話した事を思いだしたのが一つ、もう一つの理由はここに有るレコードを全部持って帰って家でじっくり聞けると思ったからだ。
「もう二度としなさんな。今日は他の先生は皆帰った後だったから、担任の先生にも報告はしないけど、このレコードは私が預かります」
「えーっ」
「何か文句でもあるっ?」
「いいえ」
レコードを持って帰れなくなったのは悔しいが、僕の頭の中にある事がひらめいた。音楽の先生だ、知っているかもしれない。
「先生、ギターのフレットの間隔の長さは決まっとーとですか」
音楽教師はきょとんとて「私は専攻がピアノだからギターの事はよく知らないけど。いいから、今日は帰りなさい」と言いながらシングル盤の山を一枚づつ見ていた。
「クリフはコンスタントリーがいいよ、知ってる?」と意外な事を言う。「知っとうけど、ぼかぁまぁだ激しか曲の方が」と言いながら職員室を出た。
数日後の音楽の時間がやってきた。例の先生が「今日はレコード鑑賞です。ムソルグスキーと言う・・・テンランカイノエ・・・」。退屈なレコードが終わった。
「名曲は何もクラシックばかりじゃないですね、○○君」 と放課後のレコード・コンサート連中の名を一人づつ言いながら切り出した。「今日は現在の名曲も聞いてもらいます」
クリフ・リチャードのコンスタントリーだ。それから僕達のレコードも聞かせてくれた。ちらっと目があったとき「話しがワカル先生でしょう」と言っているかのように見えた。
「おーがみくん、昼休みに職員室に来なさい。」で授業が終わった。弁当喰って、レコード・コンサート仲間の期待を一身に受けて職員室へと向かって行った。「ギターの事だけど」と言いながら、ぶ厚い本を取りだしてページをめくっていった。そこにはネックの全長からフレット毎の間隔を計算する方程式が詳しく書いてあった。コピー機なんか無い時代だから用紙をもらって一字一句書き移した。そこへ現れたのが、あの眼つぶれ手挙げれ担任。
「なんしようとか。ほーっ、えらい熱心やねぇ。理科もそのくらい勉強すりゃーねぇ」と言いながらのぞき込んできた。
とにかくフレットの謎は解けた。読んでいるあなたにも長かっただろうが、手作りエレキの準備に僕も長い時間を費やした。

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